釧路地方裁判所 昭和38年(ヨ)4号 判決 1963年2月28日
北見市大通西二丁目一五番地
債権者
北見バス株式会社
右代表者代表取締役
多田倍三
外五名
右債権者六名代理人弁護士
柴田武
右同
花岡隆治
外四名
釧路市宮本町三番地
債務者
吉田利和
釧路市末広町一三丁目二番地
債務者
阿寒バス株式会社
外一三名
右代表者代表取締役
森口二郎
右債務者一五名代理人弁護士
泉功
右当事者間の昭和三八年(ヨ)第四号仮処分異議事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
当裁判所が債権者債務者間の昭和三七年(ヨ)第四三号株式処分禁止等仮処分命令申請事件について昭和三七年六月一二日なした仮処分決定はこれを取り消す。
債権者らの本件仮処分の申請はこれを却下する。訴訟費用は債権者らの負担とする。
この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。
事実
債権者ら代理人は、「釧路地方裁判所が債権者債務者間の昭和三七年(ヨ)第四三号株式処分禁止等仮処分命令申請事件につき、昭和三七年六月一二日なした仮処分決定は、これを認可する。」との判決を求め、その理由として、
1、債権者北見バス株式会社(以下債権者会社という)は、債務者阿寒バス株式会社(以下債務者会社という)の株二一、一七九株を有する株主であり、その余の債権者らは、いずれも債務者会社の株五〇〇株を有する株主である。
2、債務者会社は、別表記載のとおり、わずか五ケ月の間に五回にわたつて新株を発行したが、その事情は次のとおりである。すなわち、債権者会社は、昭和三六年五月二九日当時債務者会社の代表取締役であつた伊藤保雄から債務者会社の株一五、五三三株を買い受けたが、その他の債権者らにそのうち五〇〇株あてを譲渡し、債権者らは、いずれも同年一一月二〇日その名義書換手続をした。
ところで、昭和三六年九月下旬債務者会社の取締役であつた申請外森口二郎は、債権者会社の右株式取得の事実を聞知し、同年一〇月六日債務者会社の代表取締役に就任するや、当時債務者会社の発行済株式総数が三〇、〇〇〇株であつたところから、他の取締役らとともに、債権者らの株式保有の割合を低下させると同時に、右森口一派の保有する株式数を過半数以上に引きあげ、もつて株主総会を制する絶対多数を確保し、債務者会社の経営権を保持する目的で、別表記載のとおり、五回にわたつて違法な新株の発行を行なつたが、そのうち、本申請において対象とする第四回および第五回の新株発行について、その無効事由を詳述する。すなわち、右森口らは、前示目的達成のため、公募に名をかり、その実公募手続をとらないで秘密のうちに、右二回にわたる新株発行について、申請外木上喜久治、同中田公治、同加藤信吉らと通謀し、大部分が右三名の親戚、友人、部下等であり、一部が森口の縁故者である別紙目録記載の者をかいらいとし、これらの者に割りあて引き受けさせたものである。このような目的、手続による新株の発行は、著しく不公正な方法によるものといわざるをえないし、また、右第四回および第五回の新株発行は、いずれも特定の第三者に対して新株引受権を付与したものであるから、当然商法第二八〇条の二により、いわゆる株主総会の特別決議を要するにかかわらず、これなくして発行されたものである。従つて以上いずれの理由によつても本件第四回および第五回の新株発行は無効というべきである。よつて債権者らは昭和三七年六月一一日債務者らに対し右新株発行無効確認の訴を釧路地方裁判所に提起した。しかし、右森口は、この訴提起を知るや、債務者らと通じ、妨害のため、右株式を第三者名義に書換手続を行なう虞れがあるので、債権者らは、同日債務者らに対し、右株式の処分禁止、同株式の占有解除執行吏保管、名義書換手続等の禁止の仮処分を受ける必要があるとして、同裁判所にその仮処分命令を申請し、同月一二日同裁判所はその旨の仮処分決定をした。よつて債権者らは右仮処分決定の認可を求める。」
債務者ら代理人は、主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、答弁として、
1、債権者ら主張事実1、のうち、債権者会社を除くその余の債権者らは各五〇〇株の株主であると主張しているが、その余の債権者らは、債権者会社から主として訴訟行為をなす目的のため右株を譲り受けたものであるから、右譲受は無効というべきである。
別表記載の第四回および第五回の新株発行がなされたことは認めるが、右新株の発行が、債権者ら主張のような目的、手続でなされたこと、別紙目録記載の者が債権者ら主張のような特定の第三者であつたことは、いずれも否認する。
2、債務者会社は、第四回および第五回の新株発行にあたつては、同会社が地方的同族会社であつて、その株式が上場されていないところからいわゆる自己募集の方法をとつたに過ぎず、従つて、その募集については、新聞公告その他によつて不特定多数の者に知らせる必要はないし、いわゆる割当自由の原則によつて募集に応ずる者は何人であつても差支えないわけであるから、その新株発行は、不公正な方法とはいえない。
3、かりに、本件第四回および第五回の新株発行が特定の第三者に新株引受権を付与したものであつたとしても、そのために要する株主総会の特別決議は、債務者会社内部の意思決定の問題に過ぎず、これを欠くからといつて新株の発行を無効とすることは、株式が有価証券として流通を予定されている以上、著しく取引の安全を害するものといわなければならない。従つて、債権者らの主張は理由がない。
4、債務者会社を除くその余の債務者らは、本件仮処分によつてその取得した新株の流通を阻害されており、従つて、本案判決が確定するまで右仮処分が存続するにおいては、右債務者らは多大な損害をこうむり、また、債務者会社は、それによつて信用を失い、経営上苦境におちいる虞れが充分あり、かくては異常な損害をこうむるものというべく、よつて、本件仮処分決定の取消を求める。
理由
別表記載の第四回および第五回の新株発行がなされたことは当事者間に争いがない。よつて以下債権者ら主張の無効原因について判断する。
まず、債権者らは、右第四回および第五回の新株発行がいずれも著しく不公正な方法によるものであるから無効であると主張する。しかし、たとい債権者ら主張のように、債務者会社の代表取締役森口二郎らが株主総会における多数者の地位を維持もしくは獲得するため、その権限を濫用して自己に味方する者のみに新株を割りあて、引き受けさせたとしても、株主において、右新株の発行前その差止を請求する権利等を有することがあるのは格別、一たん発行された以上、取引の安全の需要性にかんがみると、右理由をもつてしては新株の発行を無効とすべきいわれはないものといわなければならない。
次に、債権者らは、右各新株の発行は、特定の第三者に新株引受権を付与したものであり、株主総会のこれに関する特別決議を欠くので無効である旨主張する。しかし、債務者会社の定款に別段の定めがあることの主張のない本件においては、新株発行の権限は取締役会に属し、株主総会の特別決議による授権は、右新株発行の権限の濫用を防止すべき対内的な制約としての意義を有するに過ぎないものというべきである。してみると、右決議の欠缺は、新株発行の効力に影響を及ぼすものということはできない。
よつて、債権者らの本件仮処分申請は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかであるから、本件仮処分決定を取り消し、債権者らの本件仮処分申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条仮執行の宣言につき同法第七五六条の二を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 草場良八)
〈以下省略〉